taketakechopの小話の世界

taketakechopが展開するイラスト・映画・文法にまつわる小話の世界です。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」の素晴らしいところを言えますか?

勝手に品詞分解4

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これは、

川端康成 *1の『雪国』 *2の冒頭文です。

この文の

素晴らしいところを

説明できるでしょうか?

困りますね。

困りませんか?

困った人は、

説明するべき観点が見つからなかっただけです。

観点を決めると、説明できます。

taketakechopの観点は、

勿論、文法です。

品詞分解すれば、説明することができます。

とういうわけで、

文法の小話「勝手に品詞分解4」です。

品詞分解すると以下のようになります。

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【わかったこと】

①「国境の長いトンネルを抜ける」と「雪国であった」の

 2つの文が合体している。

②それぞれの動詞「抜ける」と「あった」の主語が省略されている。

 

英訳文と比較すると面白いと思います。

The train came out of the long tunnel into the snow country.」

エドワード・ジョージ・サイデンステッカー訳 *3

英語は、省略しない文です。

主語に「The train」がしっかり出てきます。

また、

この訳文は、1文として訳されています。

ここが一番大きな違いでしょうか。

 

日本の文学で、

素晴らしいと考えられる作品は、

10人の読者が

異なる10通りの感想を持つことができる作品です。

10人の読者に10通りの感想を持たせるために、

省略する表現(=全てを言わない=粋)や

抽象的な表現を駆使して、

日本の作品は、作られる傾向にあります。

この省略された部分抽象的な部分

読者は、各々の

思いを馳せたり、

想像したりして物語を楽しみます。

この「雪国」という抽象的な言葉は、

この文のポイントの一つです。

もう一つのポイントは、変化です。

2つの文を合体させて、

前の文と後ろの文で変化が起きるよう言葉が選ばれています。

しかも、2つの変化が同時に起きる仕掛です。

ひとつは、視点の変化で、

「国境の長いトンネルを抜ける」=低い視点から

「雪国であった」=上空から見下ろす高い視点

と変化します。

もう一つは、色の変化です。

「国境の長いトンネルを抜ける」=から

「雪国であった」=

と変化します。

この「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」には、

3つの仕掛けがある複雑な文です。

また、

taketakechopが特に素晴らしいと思うのは、

この型をまねれば、

誰でも、素晴らしい文が作れるところです。

 【ポイントまとめ】

①抽象語の使用

②視点の変化

③色の変化


作文例

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どうですか?

文の成分としては、全く同じで、

3つのポイントを押さえています。

言語センスの低きtaketakechopでも、

それなりにそれっぽくないですか。

(そうでもない?ただ自分の場合は、これが限界。)

この「国境の 長い トンネルを 抜けると 雪国で あった。」という文は、

これ程素晴らしい名文なのです。

しかし、今更、

名もない人間が言うことではなかったですね。

それでは、失敬します。

勿論、taketakechopの勝手な解釈で、諸説あります。

*1:昭和の戦前・戦後にかけて活躍した小説家。1968年にノーベル文学賞を受賞したが、72年にガス自殺。

*2:1935年(昭和10年)から1947年にかけて書かれた。完結本は、1948年12月25日に創元社より刊行。

*3:翻訳家。学者。『雪国』の英訳を行い、川端康成ノーベル文学賞受賞に大きく貢献したと評価されている。