「ない」初級編
「ない」は、
とてもややこしい言葉です。
文法問題が入試に出ることは、ほとんどありません。
しかし、
「ない」は、出題傾向にある数少ない品詞のひとつです。
「動かない」の「ない」は、助動詞ですが、
「美しくない」の「ない」は、形容詞です。
助動詞の「ない」は、
「動作の否定」を意味する「ない」のことですが、
形容詞の「ない」は、
有るか、無いの「ない」のことです。
興味のある方は、
次の問題にチャレンジしてみて下さい。
問題
次の文の「ない」は、
(A)助動詞 (B)形容詞 (C)どちらでもない のどれでしょう。
①彼は寝ないことを自慢する。
②猫は寝込まない。
③久しぶりに織田裕二の『お金がない』が観たいな。
④今日の海は穏やかでない。
⑤毎年お年玉が少ない。
答え
① A
② A
③ B
④ B
⑤ C
よくある解説
文節に区切ると分かります。
各文を文節に区切ると上のようになります。
形容詞は、自立語なので、
形容詞の前で、文節は、必ず切れます。
だから、
③と④の「ない」は、形容詞になります。
残りの①と②と⑤を考えます。
助動詞は、動詞にくっきます。
そのことから、
「ない」がくっついている品詞が
動詞か、動詞でないかを確認します。
①寝 ない =寝る+ない ⇒「寝る」は、動詞です。
②寝込ま ない=寝込む+ない ⇒「寝込む」は、動詞です。
⑤少 ない =少+ない ⇒「少」は、動詞でない。
結果、
①と②の「ない」は助動詞で、
⑤の「ない」は、形容詞「少ない」の一部となります。
どうでしたか?
この解説で、
この手の問題が解けるようになると思いますか?
この解説では、解けるようにはなりません。
というのも、
文節に区切ることは、決して簡単なことではないからです。
文節に区切ることは、
中学1年で習う内容です。
教科書 *1 には、
「文を文節に区切るためには、
区切り目に「ね」「さ」などを
入れてみるとよい。」といった
分かるような、分からない解説が載っています *2 が、
絶対にこの方法では、文節に区切ることはできません。
なぜなら、
全ての品詞を理解していない限り、
正しく文節に区切ることはできないからです。
というわけで、
全ての品詞を理解していなくても、
解ける方法を紹介します。
①言葉(品詞)の間に「は」が入るか、入らないか
②助詞を「は」に置き換えることができるか
この2つを試すことで、
「形容詞・形容動詞」か、
「動詞・形容詞の一部」に分けることができます。
では、試してみましょう。
①寝ない ⇒寝 は ない×
②寝込まない ⇒寝込ま は ない×
③お金がない ⇒お金 は ない〇
④穏やかでない⇒穏やかで は ない〇
⑤少ない ⇒少 は ない×
〇の「ない」は、形容詞です。
後は、
×の「ない」の前の品詞が
動詞か、どうか確認して終わりです。
動詞+「ない」のときは、
「ない」を「ぬ」「ず」に置き換えることができます。
①寝ぬ、寝ず〇 ⇒動詞
②寝込まぬ、寝込まず〇⇒動詞
⑤少ぬ、少ず× ⇒形容詞の一部
確認問題
次の文の「ない」は、
(A)助動詞 (B)形容詞 (C)どちらでもない のどれでしょう。
①打たない選手を解雇した。
②寂しくないと言ったら、嘘になります。
③切ない恋もあるでしょう。
④今月は給料がない。
⑤爽やかでない人もいるでしょう。
答え
① A
② B
③ C
④ B
⑤ B
解説
①打た は ない× ⇒打たぬ、打たず〇⇒助動詞=A
②寂しく は ない〇 ⇒形容詞=B
③切 は ない× ⇒切ね、切ず×⇒形容詞の一部=C
④給料 は ない〇 ⇒形容詞=B
⑤爽やかで は ない〇⇒形容詞=B
どうでしたか?解けましたか?
ところが、
この解き方にも、欠点は、あります。
例えば、
「つまらない大人にはなりたくない」は、どうでしょう。
この解き方では、
「つまらぬ、つまらず」と言えてしまいます。
しかし、
この「つまらぬ」は、「詰まらぬ」です。
「つまらぬ」には、
「つまらぬ=詰まることがない」という言葉と
「つまらぬ=面白くない」という2つの言葉があります。
「詰まらない」の「ない」は、
「詰まる」という動詞にくっついた助動詞です。
「つまらない」は、
それ一語で、形容詞です。
より完璧なものにするには、
知識に知識を重ねるしかないのです。
なかなか簡単な方法は、ありませんね。
残念無念。