『走れメロス』の「ディオニス王」は、悪人なのか?
メロスは、どのような人物か?
まずメロスは、どのような人物か?
最近の傾向では「メロス≠良い人」という意見を耳にします。
主な例
①老爺一人だけの意見を聞いて、「あきれた王だ。生かしておけぬ。」と発言。
⇒町を暴君の手から救うため、ディオニス王を殺そうと即決した。
②「ああ、王は利口だ。うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟でいるのに。
命乞いなど決していない。ただ、……」
死ぬる覚悟は出来ていると言った直後、舌の根も乾かぬうちに、「妹の結婚式」のことを思い出す。
素晴らしい行動力がある反面、とんでもなく慎重さに欠ける人物。
③「…そんなに私を信じられないならば、よろしい、この町にセリヌンティウスという石工がいます。
私の無二の友人だ。
あれを人質としてここに置いていこう。
私が逃げてしまって、三日目の日暮れまで、ここに帰ってこなかったら、
あの友人を絞め殺してください。
頼む。そうしてください。」
自分の都合で、全く関係のない親友を勝手に身代わりにする。⇒
これは昔からよく言われていると思いますが。自己中心的であるように感じます。
これ以外にも、
④妹の結婚式の場面で、「このままここにずっといたいなあ」とか、
⑤激流を渡り、山賊を打ち払ったあとで、疲労困憊になって、
「私は醜い裏切り者だ。どうとも勝手にするがよい。やんぬるかな。」と
投げやりなる場面があります。
④と⑤は、
「体力面、精神面が普通ではない状態」での発言なので、
追い込まれたときに出ちゃた人柄なのかもしれません。
一方、
①~③は、
普通の状態でのやりとりなので、
こちらは、「メロスの基本行動」だと思われます。
【メロスの人物まとめ】
純粋な人。
即断即決で、素晴らしい行動力がある反面、
慎重さに欠け、思慮深くない一面も併せ持つ。
また、
純粋であるが故に自己中心的な言動があり、
悪気なく周りを騒動に巻き込んでしまっている。
こう書いてしまえば、やはり決して良い人ではないように思います。
ただ、
「見て見ぬふりをしなかった。」
「皆が取り扱わない問題に真正面から向き合った。」
「結局、町を救った。」など、
やはり良い人だとする意見も多くありました。
このように、メロスに対しては評価が分かれますが、
「ディオニス王」は、どうでしょうか?
「ディオニス王」は、どのような人物か?
「ディオニス王=悪人」という意見が一般的であるように思います。
「ディオニス王=悪人」とする人の根拠の多くは、
「たくさんの人を殺した」というところにあります。
人を殺した理由は、何だったのか?
「ディオニス王が人を殺した。」という事実は、間違いないので、
次は、理由を確認します。
シラクスの町でのメロスと老爺の会話の中で、
メロスの「国王は乱心か。」の問には、老爺は「乱心ではございませんぬ。」と答えています。
まず乱心ではないとのことです。
「ディオニス王」の精神状態は、「正常」です。
老爺は、
「ディオニス王」が人を殺す理由を次のように答えています。
「(臣下が)悪心を抱いているから。」
「(「ディオニス王」が)人を信じることができぬから。」
どうやら、「疑心」からの強行のようです。
メロスが2年前にシラクスの町に来たときは、
こういう状態ではなかったようなので、
最近、何かが起きて、
王は、「人が信じられなくなった」のではないかと推測できます。
何があったのかは、書かれていませんが、
「ディオニス王」によって、
「最初に殺された人物」が鍵を握っているように思えます。
最初に殺されたのは誰か?
「ディオニス王」の「妹の婿」です。
妹の婿が「暴君ディオニス」に誕生させた原因であるように思われます。
次に
ディオニスは、
自分の息子を殺しているので、
「世継ぎに関連する事柄」が問題になったのかもしれません。
それにしても、
闇が急激に深くなったような気がします。
人を殺す、その他の理由を、老爺はさらに語ります。
「少しく派手な暮らしをしている者には、人質一人ずつ差し出すことを命じております。
ご命令を拒めば、十字架にかけられて殺されます。
今日は、六人殺されました。」
この「今日は、六人殺されました。」は、
「少しく派手な暮らしをしている者」のことなのか、「人質」のことなのか、
どちらのことを差しているのか、分かりませんが、
どちらにしても、
「派手な暮らし」を止めれば、殺されずにすんだということです。
死をもってしても、贅沢を止めない臣下にも、問題があるように感じます。
「老爺の発言」から分かったこと
①自分の王の座に固執している可能性あり。
②臣下の贅沢を止めさせようとしている可能性あり。
人を殺す前の王は、どのような王だったのか?
このことが分かるのは、最終場面です。
最終場面での「メロスの帰還」に対して、
「ディオニス王」は、次のように言います。
「おまえらの望みはかなったぞ。
おまえらは、わしの心に勝ったのだ。
信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。
どうか、わしも仲間に入れてくれまいか。
どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
「都合いいなー、そんな言葉で帳尻合わないよ。」と思ってしまいますが、
群衆は、
どうだったのかと言うと、
どっと群衆の間に、歓声が起こった。
「万歳、王様万歳。」
皆は、ウエルカムでした。
王様を「許す」というよりも、
一段上の対応である「歓迎」のように感じました。
③本来の王は、群衆から慕われていた可能性あり。
また
冒頭場面で「わしだって、平和を望んでいるのだが。」と「ディオニス王」は言っています。
④平和を望んでいる可能性あり。
この①~④を
①自分の王の座に固執している可能性あり。
②臣下の贅沢を止めさせようとしている可能性あり。
③本来の王は、群衆から慕われていた可能性あり。
④平和を望んでいる可能性あり。
まとめると、
「ディオニス王」は統治者として、
臣下の贅沢を諫め、
町の平和を望み、
責任を持って町の運営を担ってきた。
群衆からも慕われていたが、
過去に何かがあって(妹婿の言動が原因の可能性あり)、
人を信じることができなくなってしまった。
そのため、
「臣下が悪心を抱いている。」という理由で多くの人を殺してしまった。
(ただし民衆は殺していない可能性あり。)
このことから、
「ディオニス王」は、「悪人」ではなく、
むしろ「真面目」で、「純粋な人物」ではなかったのかと思います。
王として、町の平和を維持する責任感に押しつぶされ、
恐怖政治に転じてしまったが、
本来は、
領民想いの良い王ではなかったのでしょうか。
「メロス」=「ディオニス王」
結局、
「ディオニス王」も、「メロス」も、同じ人種(=純粋な人)で、
ただ「裏と表の関係」だったのでは。
お互い「ピュア・ピュア」同志だったので、
最後に
心が通じ合ったのではないでしょうか。
そう考えると、
「セリヌンティウス」は、
「メロス」や「ディオニス王」とは、違う人種で、
ある程度、
場の空気を読んで、
周りに合わせている人かと思います。
「セリヌンティウス」は、
「メロス」に振り回されることを覚悟した上で、
「メロス」と親交を重ねており、
今回に限らず、
過去において、それ相応の「メロス」の無茶ぶりを受けているように思います。
(さすがに今回のような命に関わることは初めてかもしれませんが。)
身代わりを頼まれたときも、
「セリヌンティウス」は、無言でうなずき、「メロス」をひしと抱きしめた。
とあり、
ここには、
「メロスと付き合う以上、こういうことが起こる覚悟はしていた」という
落ち着きが漂っているように感じます。
この騒動のあとも、
「メロス」と「ディオニス王」に振り回される「セリヌンティウス」の姿が浮かびます。
おしまい
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