どちらもシーゾナル・フィルム社で制作された1978年公開作品*1。
第1作目が『スネーキーモンキー 蛇拳』で、
第2作目が『ドランクモンキー 酔拳』です。
監督は、2作ともユエン・ウーピン*2。
「蛇拳」は1978年の香港映画興行収入第8位、「酔拳」は1978年の香港映画興行収入第2位に入り、両作品ともに一介のカンフースターでしかなかったジャッキー・チェンが一躍トップ・カンフースターの座を掴む出世作となりました。
では5観点で比較してみます。
【①主人公の比較】
『スネーキーモンキー 蛇拳』の主人公は、簡福(ガンフー)。縁起の良い名前らしいですが、道場で雑用係や、練習台とされるなどみじめな存在。
『ドランクモンキー 酔拳』の主人公は、黄飛鴻(フォン・ウェイフォン)。道場主の息子で、自信過剰な面あり。黄飛鴻は、歴史上の人物*3ですが、この『酔拳』では名前を借りただけで、史実に基づいていません。
1970年代の香港カンフー映画は、シリアス調の「復讐劇」一辺倒だったため、「蛇拳」にもシリアス設定がなされるも、ジャッキー・チェンの持つコミカルな一面が大衆受けしたため、「酔拳」では、コミカル要素が全面に押し出されています。
【②拳法の比較】
『スネーキーモンキー 蛇拳』では、蛇の動きをまねた象形拳法である「蛇形拳」が、『ドランクモンキー 酔拳』では、八仙の酒に酔う姿を模した象形拳である「酔八仙拳」が扱われています。どちらも、実在する拳法ですが、「酔拳」の「酔えば酔うほど強くなる」というのは映画独自のアイディアです。「カンフー激突場面」は同程度ですが、「修行場面」は「酔拳」が「蛇拳」のほぼ2倍で「筋の合間に修行場面をねじ込んだ」という印象が強いです。
【③主題の比較】
『スネーキーモンキー 蛇拳』の主題は、百年来抗争を続け合う蛇形拳と鷹爪拳の抗争話。
『ドランクモンキー 酔拳』の主題は、ドラ息子を一人前にするため、酔八仙拳の達人に預けるという成長話。
【④筋立ての比較】
『スネーキーモンキー 蛇拳』では、蛇形拳の達人のお爺ちゃん*4と偶然、関わり、偶然、蛇形拳を教わったことで、最終的に鷹爪拳から狙われます。それなりに理に適なっているようにみえますが、87分過ぎまで「主人公が鷹爪拳から蛇形拳を守る救世主になる」という命題が観ている側に提示されないところが難点でしょうか。例えば、蛇形拳の継承者の息子という設定だったら、すんなりいったように思えます。
『ドランクモンキー 酔拳』では、主人公は不真面目なため、修行に勤しめませんが、ある男に打ちのめされ、屈辱を味わうことで、本格的に修業に打ち込みます。無事に修行を終え、帰宅すると、タイミングよく緊急事態の一報が届きます。急いで、父と殺し屋との戦いの場に駆け付けると、その殺し屋がなんと、あの因縁の男だったという偶然。本題(成長話)と殺し屋との決闘は、ほぼ接点がなく、かなり強引な展開です。観ている側は、修行達成の先の目的が分からないため、90分過ぎまで「ただ修行を達成するだけ」というテーマで観ないといけないところが辛いように思われます
【⑤決闘場面の比較】
『スネーキーモンキー 蛇拳』は「蛇形拳 対 鷹爪拳」の対決。
一度、闘って負けており、最終場面では再戦の形です。蛇形拳に猫爪のアイディアを加えることで終始圧倒し、2分39秒で勝利。リベンジ成功と同時に、蛇形拳を守ることにも成功します。
『ドランクモンキー 酔拳』は「酔拳 対 無残拳」の対決。
一度、闘って負けており、最終場面では再戦の形です。一進一退の攻防から徐々に攻め込まれるも、自分らしさの表現と、純度の高いお酒により、新たな型を生み出し、9分37秒で逆転勝利。リベンジ成功と同時に、父親を守ることにも成功します。
【まとめ】
監督、主演、出演者がほぼ同じなため、受ける印象もほぼ同じです。敢えて優劣をつけると、筋立ての部分で『スネーキーモンキー 蛇拳』の方がちょっと面白く感じるのではないでしょうか。