1991年あたりのことだったと思う。
男、数人でカラオケルームに行った。
その中に歌の上手い人がひとりいた
彼の番が来た。
「15の夜」が流れる。
1983年に発表された尾崎豊の名曲だ。
彼は、
尾崎豊が得意だった。
人の歌を聴くことは、基本、ないのだが、
珍しく、皆、彼の歌声に耳を傾けていた。
「あいかわらず上手だな」などと、心の内で思っていると、
サビに差し掛かる。
「15の夜ー」
そのときだった。
悦に入っていた彼を、ことが襲った。
「盗んだバイクが走り出すー」と
彼は、いい声で歌い上げた。
皆、直ぐにその異様さに気づき、
「怖ー、怖ー」
「盗んだバイクに自動帰宅装置が付いていたのか」などと
言いあい、肩を寄り添いあった。
たった一文字の助詞、
「で」が「が」に変わっただけで、
こんな怪奇現象が起こるなんて、
助詞の恐怖を思い知らされた一夜だった。